辛源

ニューヨークと日本で活躍するステージ・アーティスト「辛源」さんインタビュー[第1回/全2回]

ミュージカル、ハミルトンとの関わりは?[前編]

interviewer:Reborn


──「業界の激レアさんに会う」今日のゲストは、辛源さんです。

よろしくお願いします。

──あの、辛さん、辛君と私は非常に長いお付き合いなんですが、 まず辛君のことをひと言で紹介すると… ひと言では、なかなか説明しづらい人なんですけど。 えーっと、イギリス国籍でニューヨークにお住まいで、在日韓国人の血を引くハーフ、そして今はステージ・アーティストって事ですよね?

はい。

──辛さん自体がミュージカルの世界で活躍なさっているのですが、これからどんどんもっと有名になっていくだろうという事で、今日は既に成功した人じゃなくてこれから成功するだろうって人に期待を込めて色んなことを聞いていきたいと思うんですけれども、そういった方です。 前置き長いんですが、初めて出た舞台は何ですか?

「RENT」でした。

──何年ですか?

東宝の「RENT」2008〜2009年です。

──それが初めて?

はい。

──それまでは舞台の活動をしてなかったのに、どういうキッカケで?

オーディションがあって、受けました。

──受けたの?

大学生、18〜19歳くらいだったんですけど、日本ってオーディションの期間が結構長くて、あと作品も1、2年前に決まる場合があって、僕の場合は出演する2年前に決まりました。

──じゃあその間は稽古?

その間は、アメリカに一回留学に行ったりして帰ってきて。

──のんびりだね。

留学は決まってたんですけど。

──なるほど。

はい。稽古自体は1ヶ月半くらいでした。

──「RENT」でも大事な役だったんですけれども、「RENT」の後はどういう?

「RENT」に出た時にキャストの中で一番キャリアがなくて、あの結構稽古場ではなんていうんですか苦戦をしたんですね。で、これは俳優としてやって行くためにはちょっとトレーニングを受けなきゃいけないなって思って、大学もあったんで2年間くらい戻ってから、卒業式に出ずにニューヨークの演劇学校に飛び込んで。

観光ビザは6ヶ月のを取れるんですけど1年に延長して、1年のコースを本当はやっちゃいけないんですけど、やったんですよ。学校にいる時にたまたま「RENT」を見に来てくれてた小池修一郎さんって演出の方からオファーを頂いて、「Mitsuko~愛は国境を越えて~」って作品に。

──えっと、それが何年に?

2013年ですかね。安蘭けいさんと。

──安蘭けいさんはその前から知ってたの?

お会いしたことはあったんですが、共演は初めてで、その後東宝の「next to normal」って作品でまた。
「Mitsuko~」では母と息子役、次の「next to normal」でも母と息子役で、2回共演してるんですよ。

──偶然ね。

縁があります。

──その後は、「ロッキーホラーショー」だっけ?

その後は、「ロッキーホラーショー」ですね。それもオーディションでした。

──なるほどね。やっぱりオーディションで受かるというのはそれ位、実力があるんでしょうから、認められたわけですよね。

ラッキーですね。

ニューヨークでアーティストとして生きていく大変さ

──ラッキーですね。で、どういうキッカケでニューヨークに?

ニューヨークで二十歳くらいの夏に、「RENT」に受かった後にアメリカ留学したじゃないですか。その大学が終わった後の3ヶ月をニューヨークで過ごしたんです。まぁ、おばあちゃんがちょっとクラス受けて来なさいって、クラス代を僕にくれて(レントしてくれて)、そのお陰で色んなクラスを受けれることが出来たんですけど、それがやっぱり刺激的で本当に競争率の高い街じゃないですか。

だから全然できないんですけど、(そこに)いるだけで基礎実力が上がって行くような感覚があって、まぁ兎に角自分より上手い人のいる環境に自分を置きたいなって思って。だから大学卒業してからもニューヨークに渡って、それからニューヨークに行きっぱなしですね。24歳の時にニューヨークに渡って今年9年振りくらいに帰って来てるって感じですね。

──その、ニューヨークでアーティストとして生きて行くのは大変ですか?日本と比べたら。

化け物が多いじゃないですか。

──化け物が?

もの凄い上手いとか、歌も演技も。で、本当に何ていうんですか、あの意気消沈してしまうくらいに実力の差を感じさせてしまう人がいっぱい居る中で、負けずとじゃないですけど、ずっと何年も何年もコツコツやっていれば上手くなって行くかなって言う希望を持ってひたすら向こうでオーディション受ける生活をやってます。

──その、日本の舞台とニューヨークの舞台を比較するとどうなんですかね?例えば待遇とか、まぁその、役者に対してのケアとか。今回コロナ渦でこういった事になっていますけれども、どうなんですかね?

アメリカは書面上でこういったことが保証されてますよって安心感があると思うんです。日本の場合は、俳優の組合はないですけど、その分善意に基づいたちょっとしたボーナスみたいな待遇が。アメリカではないような扱いはあるかな。。

例を出して言うと、コロナ渦でブロードウェイがシャットダウンした時に、結局プロデューサー団体のブロードウェイ・リーグと俳優労働組合を始めとする色んな裏方の組合とか皆が交渉して、クローズした週の150%のギャラと、プラス2週間と、あとアメリカは健康保険が雇用に付いてるので、雇用保険は数ヶ月付けっ放しにしますよって事で落ち着いたんですけど。

日本の場合は組合がないじゃないですか。そうすると契約上でいったら本当に舞台がシャットダウンしちゃった人は、しかもステージ毎にギャラが支払われるじゃないですか、そうしたらステージを踏まなかったら1ヶ月半稽古をしていても、ゼロになりうる。でも日本は事務所のパワーがあるから、やっぱり事務所がプロダクションなりにプレッシャーをかけたりして、ギャラ全額とか、何か善意があるな、と。アンサンブルはギャラ全額、プリンシバルは少し減らした額をもらうとか、そう言うことをやってるプロダクションがあったりだとか、アメリカとまた違うなって。まあ皆共同で作品作りをしているコミュニティだから、助け合っている感が日本はあるなっていうのは今回感じました。一概にどっちが良いとか言えない。

──なるほど。で、今はコロナ渦でこっちに戻って来て、当分は日本で活動できる訳ですね?

そうですね。ニューヨークは今シャットダウンしちゃってるんで、どっちみち今年は日本に居ようと思っていたんです。だから引き続き計画を遂行しようかなって思ってて、あとはニューヨークで作った自分のコネクションとかノウハウを日本でどういう風な活かし方があるかなって、ちょっと模索したくって。コロナで直接いろんな人と対面で会うのが難しいんですけど、Zoomとかを介して色んな人とお話をしようとしているところですね。

──なるほど。なんか噂によるとこの間ニューヨークで大成功した「ハミルトン」を使って自分たちで映像を作って楽しくやったんだって?それはどういう?

えーっと、「ハミルトン」っていう作品があるんですが、こちらは某大手日本のミュージカル・プロデューサーがツイッターに“この作品は絶対に日本語に訳せないし、訳したところでやる意味がない”みたいなレベルの、あのもう訳すのがすごく大変な作品なんですよ。

ミュージカル「ハミルトン」US予告編

ミュージカル「ハミルトン」

「米国建国の父」の一人で、カリブ海の島出身で孤児となり、立身出世して建国まもない米国の初代財務長官を務めたのちに決闘死したアレキサンダー・ハミルトンの波瀾(はらん)万丈の生涯を、ヒップホップに乗せ生き生きと描いた2015年初演のブロードウェー作品。プエルトリコ人の両親を持つリン・マニュエル・ミランダが脚本と作詞作曲を担当し、主役ハミルトンも演じた。初代大統領ワシントンら主要な役に黒人やヒスパニックなどマイノリティー俳優を起用したことでも注目を集めた。初演から瞬く間に人気となり、翌16年には米国の優れた演劇に贈られるトニー賞を11部門で受賞、戯曲部門のピュリツァー賞も受賞。16年撮影のオリジナルキャスト版の舞台が、7月3日から動画配信サービス「ディズニー+(プラス)」で世界同時配信されている。

──ラップ・ミュージカルですか?

ラップ・ミュージカルで、ものすごい情報量がこう、ギュウギュウに詰められていて日本語に訳すと大体4分の3くらいの情報量しか入れられないんですよ。

──確かに。

そこを、情報量を維持しながら更に韻を踏むっていうのを再現するってもう不可能じゃないですか。だけど何か方法がないかな、と思って。自分のライブがあったんで、2018年にあったんですけど。コンサートのアンコール曲でちょっと実験的にやってみようと思って訳してみたら、直訳じゃなくて意訳。あとはまぁこのセリフによって伝えられている情報が何なのか、それは感情的な情報であったり。まぁその情報の取捨選択をちょっと工夫する事によって訳すパターンを増やして、そこから韻を探していけばはめられるな、て事を発見したんですよ。で、披露してみたら結構反響があって、ニューヨークにいる日本人の友人とかコラボレーターがもう1曲やりたいって言った時に、ヤルって言ってくれて、いま動画が2つ上がってるんですけど。

──それって、何の曲?

「My Shot」という曲と、「Helpless」という曲です。

My Shot
Helpless

──なるほどね。私も見ましたけど楽しいですよ。

ありがとうございます。

──あの、「Helpless」で冒頭から歌う彼女はニューヨーク在住なの?

彼女はニューヨークで頑張っている日本とアメリカのハーフの女優、ブックマン・花ちゃん。

──なるほど。彼女素晴らしいですね。歌声も素晴らしいし、辛くんも素晴らしかったんですけど、あれ中々面白いなって思うんですけど。

ありがとうございます。そう言って頂いて。

──「My Shot」は、一人で?

「My Shot」は自分でやりました。

──なんかどうですか?ラップを日本語に訳すって事で、どういった工夫というか、ここはちょっと難しかった、とかありますか? 

えっと、なんか翻訳物について、書籍の翻訳だとこう字数を増やせばいいから、直訳とかできるじゃないですか。だけど、音楽とかだと尺の制限がある中で取捨選択を。。

──音もね。

音も韻も制限がある中で、多分日本の翻訳でよく落ちる落とし穴っていうのが、脚本ってかなり具体的なことが書かれてるじゃないですか。じゃあそれが具体的ではないちょっと抽象的な意味に翻訳してしまうっていう事が多いと思うんです。
なんか全ての意味を掴むためじゃないですけど、ものすごく具体的なことを訳した時にじゃあ直訳ではないけれども同じくらい具体的さで言ったら、具体的なこう訳を持って来てあげると、それによって再現できる感情的インパクトを無くさないのかな、って感覚がしていて。

──なるほど。 

もちろん意味は通すんですけど、1行1行単位で意味を通そうとしすぎると全体的な感情的インパクトが失われてしまって、作品の真髄となる要素が消えてってしまう。

──今、辛くんが言ったことってすごく難しいんだけど、多分見てもらったらわかると思いますね。

(笑)

──観てもらったら、なるほどそういうことを言ってるのかなって、わかると思います。

そうですね。はい。

──その、もう一つ聞きたかった事が、僕が最初に紹介した時に、辛くん自体が色んなアイデンティティを持ってる。自分のアイデンティティに関してニューヨークに住んで変わったかも知れませんが、辛くんは日本でも暮らした事があるし、韓国でも暮らした事があるんですよね?そういうアイデンティティみたいなのはどう考えてます?今は。

ニューヨーカーっていうアイデンティティも強いですし、アイデンティティは色々あると思いますよ。日本ももちろんあるし、イギリスがちょっと弱まってきてるかな?(笑)韓国もありますけど。

──お父さんはイギリス人?

そうですね。でもアメリカ英語喋っちゃってるんで。

──アメリカ英語喋ってるから?なるほど。

僕が。

──お父さんと喋るときはアメリカ英語出ちゃうでしょ?

出ちゃいます。そうしたらなんか、イギリス人じゃないって言われます。(笑)売国奴みたいな言い方されちゃいます。
イギリス人のそういうところね、プライドが高いんで。
イギリス英語が正しい英語なんだって。

──なるほど。

そうですね。

──歴史的にはね。

多分、ニューヨークの風土が合ってるんだと思います、移民の町だから。

──自分自身がね?

はい。

──じゃあ、ニューヨーカーとしてすごく楽ですか?

ニューヨークは凄く過ごしやすいです。

──その、日本で暮らしていた時よりも楽ですか?ニューヨークの方が。

そうですね。結局、多文化で育ったニーズが日本より高いと思うんですよ、ニューヨークの方が。日本にもハーフはいっぱいいますけど、日本で育つハーフってなんだろう、英語が話せるって期待されるとか、チヤホヤされたりとか。でもドラマの出演とか映画とかは役が少ないとか、ちょっと中途半端な立ち位置だと思うんですけど、逆にアメリカのハーフは白人マジョリティだから、なんかちょっとマイノリティな立場にいる。だからちょっと自信がなかったり、自分のアイデンティティがよく分からない、あるいはアジアの言葉を話せない、けれどアジアの見た目があるとかで、

じゃあ自分たちのアイデンティティを自分たちで探さないといけないなっていうので、集まったり動画作ったり、アート作ったり、ブログ書いたりする子がいっぱいいるんで、与えられたアイデンティティがない場合に自分でそれを確立して行くっていう事をしている人がいるので、ニューヨークが過ごしやすいかな、と。

──なるほどね。
今すごくハマってる「ハミルトン」も、リン=マニュエル・ミランダさん自身がああいったアイデンティティを持ってたっていうのかな。最先端のアーティストっていうのかな。そういう感じしますよね。

そうですね。
彼がハミルトンに共感した理由は、ハミルトンはカリブ海育ちの移民なんですよ。移民なのに白人中心のアメリカの政界にやって来て、ど根性と仕事量で圧倒して上り詰めて行った人間。完全に自分に被せて、自分の物語ですよね、彼にとっては。だからあそこまで心を込めて良い作品をつくったのかな?

──そうですね。やっぱり多人種というか、色んなアイデンティティを持った人が舞台に出ているし。

キャスティングのことですか?カラーコンシャス・キャスティングって言って、つまり建国の父ジョージ・ワシントンとか、トーマス・ジェファソンとか、アレクサンダー・ハミルトンとか、アーロン・バーとか出演者がいっぱい居るんですけど、全員黒人とヒスパニックで占めてるんですね。

──それが驚きですよね。

そう。で、取って付けたように出落ち役の悪もの役のジョージ三世だけが白人。

──そうだったね。それが面白い。そういうところがウィットに富んでアメリカで受け入れられたところもありますよね。

もう痛快ですよね、観ていて。

──日本人の、そういう事を知らないで観た人がどれくらい楽しめるか分からないですけどね。

ま、日本だとそこのキャスティングがどうしようもないですね。

──どうしようもない。

そこは当てはまらないかも知れません。

【辛源さんプロフィール】

イギリスと在日コリアンの両親のもとロンドンで生まれる。
中高を神戸で過ごし、17 歳の時、1 年間韓国の高校へ留学。

2008 年東宝シアタークリエにてブロードウェイミュージカル「RENT」のエンジェル役として舞台デビュー。以来、日本オフィシャル公演版「ロッキーホラーショー」「Mitsuko~愛は国境を越えて~」「Dracula」「The Last Five Years」「BARE」、ピューリッツァー賞受賞作品「next to normal」等に出演。

2012 年ニューヨークの T. Schreiber Studio 正規課程を修了後、アーティストグリーンカードを取得。アメリカのドラマ「Unbreakable Kimmy Schmidt」や「報道バズ」、舞台ではニューヨークフリンジフェスティバル、「Miss Saigon」「The History Boys」「Monte Cristo」、ワークショップ公演では「Other World」「Hold On」「Kpop」「Maybe Happy Ending」等、コンサートでは、「54 Below」「Joe’s Pub」「8-Bit Big Band (SONYホール)」などに出演した。

その他SAMSUNG、Estée Lauder、Burlington Coat Factory、SONY、 ABC-マート、アサヒ、グリコ等の TVCM に出演。TV JAPAN の北米向け情報番組「TV JAPAN CLUB」のメインキャスターや日系コメディーショー「BATSU!」の司会を務め、BWAYミュージカル「アリージャンス」の映画版の翻訳・字幕も手がけている。早稲田大学卒。

genpartonshin.com // @genpartonshin

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